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第12回 高齢者の慢性硬膜下血腫

頭部外傷 ~高齢者の慢性硬膜下血腫~

2017.5.9
打撲後1~2カ月で症状 手術で速やかに改善

【相談者】
 Yさん 56歳女性。85歳の義父が、2カ月前に雪道で滑って転んで頭を打ち、病院に運ばれました。そのときのCT(コンピューター断層撮影)検査では問題ありませんでした。しかし最近、頭を痛がるようになって、頻繁に転ぶようになりました。また、何となくボーっとして物忘れもひどくなってきました。認知症になってきたのでしょうか。

 お年寄りは若い人と違い、ご自身での転倒事故が多く見られます。一般的に高齢者は足腰が弱く、視力やバランス感覚が低下し、転倒しやすいと考えられます。また、血圧を下げる薬、睡眠薬や精神安定剤などの薬を常用している人も多く、それらの薬の影響で転倒しやすくなっていることもあります。

 頭の打撲の程度が軽いと思っても、重篤な出血を引き起こす場合があります。特に時間がたってから問題が起こるケースもあり、注意が必要です。 

 そういう問題の一つとして「慢性硬膜下血腫」という病気を取り上げます。

■どんな病気?
 慢性硬膜下血腫とは、頭蓋骨の内側にある「硬膜」という膜と脳との間に血液がたまる病気です。典型的な場合、頭部打撲後の慢性期(1~2カ月ごろ)にたまった血液(血腫)が脳を圧迫して症状が出ます(表1)。頭を打った程度が軽すぎて、本人が頭を打ったかどうか分からないこともあります。

(中)表1 慢性硬膜下血腫が疑われる症状

 この病気は、高齢の男性に多く、大量飲酒の習慣、血液の異常や薬の作用で出血が止まりにくい状態などがある人も発症しやすいようです(表2)。

(中)表2 慢性硬膜下血腫を発症しやすい人の特徴

■診断と治療は?
 症状は、アルツハイマー型認知症や脳卒中と似ていますが、CTあるいはMRI(磁気共鳴画像装置)の検査で診断できます。典型的な場合、頭部打撲直後の頭部CTでは異常は見られず、1~2カ月後の頭部CTでは、図のように血腫による圧迫で、脳がゆがんでいる所見がみられます。

(中)図 慢性硬膜下血腫

 慢性硬膜下血腫の患者さんに対しては通常、頭蓋骨に小さな穴をあけて、たまった血液を排除する手術を行います。手術後、多くの患者さんで、速やかに症状が改善します。

 たまっている血液が少量で症状がない場合は、自然消退することもありますので、通院で経過をみたり、薬で血液の吸収を促すこともあります。

■転倒を防ぐには?
 高齢者の転倒事故は増加傾向にあります。事故を防ぐには、筋力の維持強化に加え、転倒しにくい環境を整備することなどの対策が必要です(表3)。

(中)表3 転倒事故の予防対策

 しかし、高齢者の転倒を完全に防ぐことはできません。もし、転倒して頭を打った場合は、十分に経過観察していただき、慢性硬膜下血腫が疑われる症状があれば、脳神経外科医にご相談ください。


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